読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

日付のない便り

日々のとりとめのない覚書 映画や読書 そして回想

「百年小説」(ポプラ社)を手に入れた アンソロジーは楽しい!

 

 この本、なにしろ、厚い。1333ページ。見た目は広辞苑というところか。日本の短編小説のアンソロジーなのだが、これほどのボリュームのものはこれだけだろう。とはいっても、作品数はそう多いわけではない。贅沢な作りなのだ。ネットオークションで手に入れたわりに、保存状態は良好で当時の「刊行記念クイズ」の応募ハガキが挟まっているのだが、そこには

《「森鴎外から太宰治まで、51人の傑作短編を1冊に」》

《「大きな文字」「総ルビ」で読む美しい日本語を愛する人たちの必読の書!》

というようなコピーが載っている。

www.poplar.co.jp

 

 文字は確かに大きい(老眼鏡がいらない)。活字の組み方もゆったりしている。スピン(しおりひも)が2本ついているのも今時珍しい。総ルビも、もともと中途半端な知識しか持たず、年齢的な衰えを自覚しつつある私のようなものにはありがたい。本の雰囲気(?)は、昔、母の実家にあった講談本によく似ているのだが、紙質が違うので重さが違う。

 2008年の刊行当時、書店で目にして、家の本棚に並べてみたいという欲求がムクムクと頭をもたげたのだが、なかなか購入する勇気がなかった。

 電子書籍が増える中、時代に逆行するような贅沢な作りのこの本を手に入れて、嬉しかったのだが一つ誤算があった。大型本だから当然なのだが、寝転がって読むのはまず困難で、膝の上に置いて読むのも厳しく、また、喫茶店に持ち込んでというのも無理で、この本に限っては机に向かって正しい姿勢で読むのがベストだという結論に至った。いつもだらしない姿勢になれているので、ちょっと、堅苦しい。

 

 アンソロジーであるから、編集の方針があるのだろうが、この本は潔くて、編集の方針も解説も全く記されてない。51人の作家は生年月日順に配置されていて、その作家についての略歴、解説はそれぞれ扉の裏のページにあるが、どうしてその作家を選んだのか、その作品を選んだのかということは述べられていない(刊行記念に「百年小説の愉しみ」という冊子が配布されたようだが、本そのものには解説の類はまったくない)。

 51人の作家とその作品の選択については、どうして、この作品が入っているのか、なぜあの作家は入っていないのか、なぜこの作品なのか等々、詳しい人にとっては、当然異論のあるところだろう。しかし、これだけ何も書いていないのは、ごちゃごちゃ考えずに、まず作品を読んで楽しんでくれということなのかとも思う。

f:id:kssa8008:20170521233209p:plain

 私は読書の幅が狭いので、51人のうちまったく読んだことのない作家が20人はいる。一つ二つの作品しか読んでいない作家が10人ぐらい。名前を知らない作家も一人いた。読んだことのある作品となるとさらに覚束ないので、異論も思いつかないのだが、それでも改めてラインナップを眺めてみると、比較的読んでいる作家については、あれ、とか、へえ、とか思うものもあるから、詳しい方にとってはあれこれと考えることも出てくることだろう。自分なら、この作家は外さない、とか、この作家ならこの作品とは違うものを選ぶ、等々。読み進めていくうちに、究極は、それぞれが独自のアンソロジーに到達するのかも知れない。この本の潔さには、そういう深謀遠慮もあるのだろうか。

 

 とりあえず、いくつか読んだ。

 岩野泡鳴「猫八」。森鴎外「杯」。江戸川乱歩「押絵と旅する男」(これは再読)。中山義秀「秋風」(再読)。

 「猫八」を読んでいて、あれっ、と気づいた。この小説では、文士たちと物真似芸人の猫八が、久米正雄の小説「虎」について議論をする場面がストーリーの中心となる。あれ、たしか久米正雄の「虎」は選ばれていたはずだと目次を見直した。このあたりは編者の企みか。

 「杯」。ロマン的な小品。私にはさっぱりよさがわからない。なんで、これなんだろう。鴎外を大して読んでいないくせに首をひねってみる。

 「押絵と旅する男」。基本的に純文学の作家が選ばれているのに、乱歩と岡本綺堂はちょっと違うように思える。作品を読む前に、乱歩についての解説を読んだのだが、最後の方に「1964年から刊行されたポプラ社の『少年探偵 江戸川乱歩全集』はロングセラーになっている」という一文がサラッと入れてある。ナルホド!

 「秋風」。中山義秀は愛読している作家だが、これは彼の中では珍しい、ほのぼのとした趣のある作品。個人的には大好きな好短編だが、なぜ「碑」や「厚物咲」という代表作ではないのか、という意図は知りたくなった(ポプラ社がこのあと刊行した百年文庫には「碑」が選ばれている)。

 

 うん、こうやって実際に読んでみると、いろいろあって、アンソロジーというのは滅法面白い。ブログで、「⚪︎⚪︎のベスト20」とか「✖️✖️ランキング」というような記事をよく見かけるが、自分で作ってて熱くなるのもわかるような気がする。

 この本、3000円はお買い得だったかも。

 

少年探偵 江戸川乱歩全26巻セット(ポプラ文庫クラシック)

少年探偵 江戸川乱歩全26巻セット(ポプラ文庫クラシック)

 

 

 

 

猫八

猫八

 

 

次の記事もどうぞ。

 

kssa8008.hatenablog.com

 

 

kssa8008.hatenablog.com

 

私の積ん読状況  「積ん読」にも、一応言い訳がある

 

 連休が終わって、だいぶ経つが、やっぱりというか、予想通りというか、連休中に読もうと、文字通り、積んであった本は、それほど高さも変わらずあちこちに積まれたままである。 

 ベッドの脇には、高価なのに思い切って買った「竹山道雄セレクション」の第4巻、昭和文学全集(安岡章太郎が収録されている巻だ)、有吉佐和子「非色」、今野敏の新刊「回帰」「継続捜査ゼミ」、住野よる「また、同じ夢を見ていた」、木内昇「櫛挽道守」。

 玄関や居間には本川達雄「ウニはすごい バッタもすごい - デザインの生物学」 、呉座勇一「応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 」、日垣隆「そして殺人者は野に放たれる」、カミュ「転落・追放と王国」、図書館から借りてきた池波正太郎全集の一冊、それにkindle paperwhiteと販売が終了しているSONY Reader PRS-T3S。そこに、ネットで手にいれた古本が何冊か。散らかしているのが嫌いなじいちゃんが、たまにチェッと舌打ちしているが気づかないふりをしている。

 

ウニはすごい バッタもすごい - デザインの生物学 (中公新書)

ウニはすごい バッタもすごい - デザインの生物学 (中公新書)

 
続きを読む

成瀬巳喜男「あらくれ」を観る  「あるがまま」の世界はどう描かれたか

 

 高峰秀子が演じるお島は、現在も含めて、日本映画にはまず見当たらないヒロインだろう。お島が、勝気で、行動的で、時に亭主に手が出るほど男勝りだから、ということではない。その無節操、無道徳ぶりが際立っているからである。そういう意味で、このヒロイン像は空前絶後といえるだろう(これは非難しているのではない)。

 原作は大正期4年に読売新聞に連載された徳田秋聲の長編小説「あらくれ」。原作とは違う面も多いが、成瀬は原作をよく咀嚼しているのだろう。お島の浮き沈み多い波乱の半生を、成瀬巳喜男は、淡々と、非情に描いていく。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/8/8c/Arakure.jpg/200px-Arakure.jpg

続きを読む

やべきょうすけは、少しふっくらしたのではないか

 やべきょうすけは、少しふっくらしたのではないか。「闇金ウシジマくん ファイナル」を見ていてそう思った。ネットで調べると、43歳だからもう立派な中年なのだが、なんとなく惜しいのだ。

http://contents.oricon.co.jp/upimg/news/20150404/2051121_201504040744864001428144626c.jpg

  彼を最初に知ったのはVシネマの「喧嘩の花道 大阪最強伝説」だった。1996年の公開だから、もう20年も前だ。別にそう期待して見たわけではない。「ビー・バップ・ハイスクール」の類だろうと思ってレンタルショップで借りてきて見たのだが、思わず身を乗り出すことになった。作品そのものもよい出来なのだが、驚いたのは主演の「矢部享祐」という俳優だ。釘付けになった。決して、演技がうまいというわけではない。だが、とにかく目につくのだ。不敵な面構え。小柄で、きびきびとした動き。エネルギーがこぼれ落ちるような躍動感。

 これって、まるでジェームズ・キャグニーじゃないか。

 中学生の頃、日曜洋画劇場で見た忘れられないアメリカの男優(「白熱」を記事にしている)。小柄で精悍。ギョロリとした目、そして何よりも独特のきびきびした動き。ギャングスター、ジェームズ・キャグニー。あのころ「汚れた顔の天使」「彼奴は顔役だ」「白熱」と私はこの人の映画に夢中になった。

 

 

kssa8008.hatenablog.com

 

「闇金ウシジマくん」の同級生にして部下である柄崎も、「クローズZERO」シリーズの片桐拳も、役者としてのやべきょうすけは、無論悪いわけではないのだが、なにか見ていて手持ち無沙汰に見える。かといって、ヤンキー映画やもう無理だし、ヤクザ映画も少し首を捻りたくなる。できれば、シリアスな犯罪映画なんかいいかもしれないな、などとあれこれと妄想してしまう。若い時そのままとはいかないにしても、彼の弾けるような動きはまだ十分不穏な空気を喚ぶことができるはずだ。

やべさん、ふっくらしたというのは、私の杞憂でしょうか。

 

闇金ウシジマくん ザ・ファイナル
 

 

 

  1. この「喧嘩の花道」のシリーズは5本作られている。3年前まで、私はそのうちの3本を持っていた(ビデオ屋が大手の進出で店じまいしたときに、買うことができた)。ビデオだったので、録画機器を買替える時に泣く泣く捨てた。 
  2. 「大阪最強伝説 喧嘩の花道」でやべきょうすけのライバル役は北村一輝。この頃から、鋭い目線で、個性的だった(最近見た「疫病神シリーズ」の桑原役ははまり役だ)。

     

     

     

    螻蛄(疫病神シリーズ) DVD-BOX

    螻蛄(疫病神シリーズ) DVD-BOX

     

     

     

     

     

 

「湯を沸かすほどの熱い愛 」を観る 確かに沸かされた湯は熱かったけれど……

 妙な題名だなと思っていたが、見終わってみるとなるほどと思う。

 映画の作りは丁寧で映像も美しいし、テンポよく画面が進んでいく。宮沢りえ(双葉)、杉咲花(安澄)、鮎子(子役の伊藤蒼)、一浩(オダギリジョー)と、それぞれ演技もなかなかすばらしく、いろいろ感心するところがあるのにどうもすっきりしない。はて、なぜなんだろう。画面を見ながら、私はずっとモヤモヤとしていた。 

 

湯を沸かすほどの熱い愛 通常版 [Blu-ray]

湯を沸かすほどの熱い愛 通常版 [Blu-ray]

 

 

続きを読む

BS日テレ「土俵の神々~大相撲名力士伝説~大関・貴ノ花と5人のライバル」は、相撲ファン必見の番組だった。

 

 大した期待もしないで見始めたこの番組、相撲ファンにはたまらない、実に見ごたえのある好番組だった。

 司会は日テレの藤井恒久アナ、増位山太志郎、花田虎上、草野仁。

 BSだからなのか、話の内容もガードが緩い。内輪話、技術論、力士の寸評、知られざるエピソードなど、花田と増位山の話はどれも興味深く、時に鋭い。最後に花田虎上が見せた弟への微妙な感情に触れる際の複雑な表情などは、おそらく地上波ではなかなか見られない。

http://www.bs4.jp/guide/document/takanohana/img/title_11.jpg

 

 BS日テレのサイトにはこんな番組紹介が載っている。

 力士としては細身の体型ながら、驚異的な粘り腰と甘いマスクで「角界のプリンス」と呼ばれ、大相撲の歴史上、また日本のスポーツ史上屈指の人気を誇った大関・初代貴ノ花。ライバルとの激闘を追いながら、その生涯をたどります。

 

 5人のライバルは、輪島、高見山、北の湖、千代の富士、そしてあと一人はちょっとひねってあって花田家、という構成。往年の名勝負が次々へと披露される。

 

続きを読む

半村良「小説 浅草案内」を読む 浅草は近いような、遠いような

 

 半村良の「小説 浅草案内」を読み終わった。先月、馬券を買いに行った帰りに錦糸町の熊沢書店で買い求めたものだ。以前に、図書館で借りて、最初の2篇ばかりを読んで、なんとなくそのあとを読みそびれて返却してしまったのだが、先月、三遊亭円歌の訃報が流れた時に、父が、そういえば円鏡も死んだんだっけ、とつぶやいたので、この本のことを思い出した。円鏡、8代目橘家圓蔵である。円鏡時代は、テレビに出ずっぱりの人気落語家だったので、前名の月の家円鏡の方が馴染みが深い。その橘家圓蔵と半村良が同級生だったということが、この作品の最初に出てくるのである。

 

小説 浅草案内 (ちくま文庫)

小説 浅草案内 (ちくま文庫)

 

 

続きを読む