読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

日付のない便り

日々のとりとめのない覚書 映画や読書 そして回想

アンコール! 老人のベッド

映画ー洋画

 実は、どうも簡単に眠れそうもないので、こうやってキーを叩いている(最近は勢いがなくなって、押している、の方が正しいか?)。ここ数年、睡眠が健康に確実に響くようになった。以前は、もったいなくて眠らない夜があった。今は、眠れなくて不安な夜がある。夜はもう親しい友人ではなくなった。

 「アンコール!」という映画を思い出した。この映画は確か劇場で見たのだが、さてどこの劇場だったろうか。

f:id:kssa8008:20160722001409p:plain

 

 

アンコール! 

 素人合唱団が紆余曲折を経て、コンクールに出場、型破りのパフォーマンスで観客の喝采を浴びる、というこの映画の骨組みはよくあるパターンで、「天使にラブソングを」や「ブラス」なんかがすぐに思い浮かぶ。ネットの解説を見ると、コメディ映画と書かれているが、もう老人の域に突入している私には、どこもとても笑えない。無骨で不器用な主人公のアーサーを、ハラハラしながら見続けるしかなかった。アーサーの孤独、焦燥、悔恨が手に取るようにわかるのだ。

 さして成功も失敗もしなかった人生。息子が一人、近くで孫娘と二人暮らし。どうやら、孫娘に母親はいないらしい。それもあってか、アーサーと息子の関係はギクシャクしている。唯一の楽しみは木曜日にクラブで友人とビールを飲みながらゲームをすること。社交的で明るい妻マリオンだけが生活の支え。その妻にガンが再発。余命数ヶ月を宣告される。

 マリオン役はヴァネッサ・レッドグレーブ、アーサーはテレンス・スタンプ。二人の老優は老いを隠さない。ヴァネッサ・レッドグレーブのしわだらけの肌、薄くなった髪。テレンス・スタンプの白い無精髭、なんとも無頓着な服装。

  この映画は、老人の心理を細かい演出で丁寧に描いていく。例えばベッド。アーサーとマリオンはダブルベッドで寝ている。何十年もそうしてきたのだろう。マリオンが入院すると、アーサーは湯たんぽのようなものをマリオンの代わりにベッドに置く。温もりがないと眠れないのだ。そう、この映画の監督は老人が眠れないということをよく知っている。マリオンが死ぬとアーサーはベッドで眠れなくなる。毎日、ソファで浅い眠りにつくしかないのだ。だから、コンクールで歌い終わったアーサーが(もちろん、歌うまでには山あり谷ありなのだが)、ベッドで大いびきをかくラストシーンにホッとするというか、納得できるのである。それにしてもクライマックスのテレンス・スタンプの歌はすばらしい。不覚にも、涙がとまらなくなった。コメディというジャンル分けはいかがなものか。

 テレンス・スタンプは中学生の頃、日曜洋画劇場で見た「コレクター」の印象しかなかったが、歌も含めて名演といえるだろう。日本人の俳優だったら、誰がこの役をやれるだろう。今は口下手で武骨で不器用で、というような老人も減っている。「男はつらいよ 知床慕情」に出ていた三船敏郎の演技を思い出したが、あと誰がいるだろう。