日付のない便り

日々のとりとめのない覚書 映画や読書 そして回想

夏の記憶  校庭の「マンガ映画」

今週のお題「映画の夏」


 夏の記憶 

 夏休みになると、小学校の校庭で野外映画会が開かれた。私が小学校低学年の頃だから、昭和30年代の話である。まだ、木造モルタル2階建てだった校舎に、昼間、白いスクリーンが垂らされる。夕方になると、三々五々、近所で誘い合って、大勢の人が集まってくる。早く来た人は、もうゴザを敷いて見やすい場所を確保している。大人はご近所同士で四方山話、子供は鬼ごっこしたり、ブランコなどの遊具で遊んだり。鉄棒や雲梯に跳びついている子供もいる。暗くなる頃には、校庭は人で埋まりあちこちで盛んに団扇をあおぐ姿が目につく。私も含めて、男の子はランニングシャツに半ズボン、大人もステテコ姿で平気で外に出ていた。やがて、カタカタカタという音とともに(映写機の音、フィルムのリールの音だ)、校舎に垂らしたスクリーンが明るくなる。

 

 あの頃は、今よりも夜はずっと暗かったので、外でもスクリーンはよく見えた。大人向けの映画ももちろんあったのだろうが、ほとんど記憶にない。覚えているのはやはりマンガだ(アニメーション、という言葉はなかった。あの頃はマンガ、あるいはマンガ映画だった)。「白蛇伝」「わんわん忠臣蔵」「わんぱく王子の大蛇退治」「少年猿飛佐助」「安寿と厨子王丸」「シンドバットの冒険」。
 夏の夜だから、盛大に蚊に刺されながらも、小学生の私はスクリーンに釘付けになっていた。

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 今のアニメ映画(例えば、ジプリ映画)などと比べてどうなのかとういうようなことはわからないし、作品それぞれの細部を覚えているわけではないが、少なくとも当時の小学生の私にとってはどれもこれもとにかく抜群に面白かった記憶がある。もう、テレビもぼちぼちと普及してきてはいたが(私の家も無理して買っていた)、映像の美しさや、ストーリーの多彩さは、まだテレビでは味わえないものだった。スサノウノミコトの神話も、「忠臣蔵」も「山椒大夫」も、そして「千夜一夜物語」も、「マンガ映画」を通して私の中に自然と染み込んでいったのだということが、いまになってみるとわかる。
 

 あの映画会は、今思えば、主催者が誰だったのか、どういうシステムだったのか、など、不思議なことも多いのだが、まだ、テレビがどの家にもあるという時代ではなく、夏の夜の娯楽として大人も子供も楽しんでいたのだと思う。
 やがて、小学校に体育館ができて、映画会は校庭から体育館に移った。その頃には、前より人が集まらなくなっていた。
 もう校庭で観ることはないだろう。夏の映画の記憶である。 

後記

  • 校庭で観た「マンガ映画」の中で「白蛇伝」だけは、なにかまぶしいような後ろめたいような気持ちで観ていた記憶がある。おそらく、マンガとはいいながらどこかなまめかしい白夫人の姿に、子ども心ながら、ひそやかな感覚にとらわれていたのだろう。
  • 東映動画のラインナップを見てみると、文中にあげてある他に見た作品は2、3作だろうか。
  • それぞれの映画のついて調べてみると、スタッフやキャストにびっくりするような名前が出てくる。例えば、「白蛇伝」の声優は森繁久弥と宮城まり子の一人十役(知らなかった!)、「安寿と厨子王丸」の安寿は佐久間良子、厨子王は北王路欣也、八汐は山田五十鈴、山椒大夫は東野英治郎。「アラビアンナイト シンドバットの冒険」の脚本は手塚治虫と北杜夫。もう一度みる機会があるだろうか。

 

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