読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

日付のない便り

日々のとりとめのない覚書 映画や読書 そして回想

『薄桜記』 これ、ホントに傑作なのかな? 

映画ー邦画

『薄桜記』

 村松友視に『雷蔵好み』という小説がある。私も実は、そんなにディープではないが「雷蔵好み」である。CS放送では、まだまだ市川雷蔵の映画は頻繁に放映する。それをコツコツと録画してはディスクに残している。いまのところ、90本余り。生涯の出演作品が150本以上だというからまだまだだが、集めてみても、根気も無くなってきているので、生きているうちに果たして全部見れるかどうか、甚だ心もとないのだが。

 『薄桜記』はその中の一本。舞台は元禄、忠臣蔵外伝の一篇だ。雷蔵の時代劇の中でも、傑作との評価の高い作品だが、今回見てみると、どうも物足りない。

 

薄桜記 [DVD]

薄桜記 [DVD]

 

 

 

 多分、五味康祐の原作を読んでいたので、ストーリーも物語の背景も、そして登場人物もあまりにシンプルになっていて、しかも結末も全く違うので、それが見ていて、あれっ、あれっ、という戸惑いになっていったのだと思う。もっとも、原作通りだと、とても2時間程度で収まるわけないので、シンプルにするのは当然なのだが、特に違和感を感じたのは、隻腕の主人公丹下典膳が、なぜ片腕を無くさなくてはならなかったのかという理由である。原作では、妻千春の不義密通(決してすべてが千春の責任ではないが)が元になっているのだが、映画ではかつての同門の意趣返しによって千春が連れ去られ、辱めを受けたという設定になっている。これでは、一見理不尽と思える離縁も、それによって義兄に片腕を斬らせることも、何とも浅い理由になる。

 また、原作では、丹下典膳は、武士の一分を通して、望まれないにも関わらず、吉良上野介の付き人になり、最後はともに心を通い合わせる堀部安兵衛と対峙し、自らを斬らせる。映画ではかつて妻を連れ去り、今は吉良の付け人になっている浪人たちとの斬り合いに変わっている。しかも、この場面の前に典膳は短筒で足を撃たれ隻腕隻脚。降りしきる雪の中、地面に寝たまま対決する。

 寝転んでいる典膳を敵が上から次々と襲う。確かにアイデアではあるし、これ以上ない絶望的な状況での戦いということになるだろうが、これ、雷蔵だからなんとかなっているものの、かなり無理がある。私など、ついついアリ対猪木の試合を連想してしまった。悲愴美だというが、これも雷蔵だからのことで、よくよく見ていると、実に説得力のない終わりかたに思えてしまう。

 原作は、大石内蔵助をはじめとした赤穂浪士や、柳生連也斎、紀伊国屋文左衛門、白竿屋長兵衛など多彩な人物が出てきて、なかなか賑やかなのだが、それはそれでまとまりのつかない部分もあるから、登場人物を絞ったのは正解だが、一方で物語は決定的なほど、奥行きの深さを失ってしまった。

 もう一つは、千春役の真城千都世が弱すぎることだ。日本人形のような美貌の女優だが、演技に深みがない。典膳が命を賭して守り、安兵衛が密かに想いを寄せるだけの吸引力がこの女優にはない。雷蔵にみあった女優となるとなかなか難しかったのだろうが。

 「薄桜記」とは、なんとも美しい題名だが、雷蔵は月代を剃っている旗本の典膳から、隻腕になり浪人となって最期を迎えるまでその端正な佇まいが変わらない。腕を斬られるシーンでも、最期の殺陣でもさして体格が良いわけではない雷蔵にスクリーンが奪われてしまう。この映画、雷蔵だけ見ていれば、それはそれで満足してしまうのだが、傑作と褒めたたえられるのはいかがなものだろう。 

 《監督》森一生 1959年公開

 

雷蔵好み (集英社文庫)

雷蔵好み (集英社文庫)

 

 

 

薄桜記 (新潮文庫)

薄桜記 (新潮文庫)

 

 

 

追記

 それにしても、勝新太郎はこういう映画では分が悪い。もともとが丹下典膳が主役のドラマ。この頃の勝新は、なかなかすっきりした二枚目で、演技力も十分なのだが、どこか眠狂四郎などにつながる虚無的な雰囲気を漂わせる雷蔵の典膳の前では、霞んでしまう。原作通りでは、雷蔵が勝新に斬られて(斬らせて)死ぬことになるので、当時の大映の若手二大スターを慮って結末を変えたのかなどとも思ってしまう(もっとも、当時、勝新の人気は雷蔵にまったく及ばなかったらしい)。

 この作品が1959年の公開、勝新太郎の転機になる「不知火検校」が1960年、「悪名」が1961年、「座頭市物語」は1962年になる。勝新太郎にとっては、文字通り大映の二枚看板になる前の苦闘の時期だったようだ。

※私は、実は「勝新好み」でもあって、座頭市のシリーズもコツコツと録画している。

 

不知火檢校 [DVD]

不知火檢校 [DVD]

 

 

 

座頭市物語 [DVD]

座頭市物語 [DVD]