読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

日付のない便り

日々のとりとめのない覚書 映画や読書 そして回想

『アイリスへの手紙』 ジェーン・フォンダは本当にいい女優だが

映画ー洋画

『アイリスへの手紙』 

  この映画を見て、ジェーン・フォンダって、こんなにいい女優だったんだと、初めて思った。『ジュリア』『帰郷』など、出演作は何本か見ているが、特別の印象はなかった。知的だが、どこか鼻っ柱が強そうなイメージが先行していて私のセンサーにはあまり反応してこなかった女優だ。

 だが、この映画で彼女が見せる、女性としての様々な強さ、切なさ、しなやかさは、実に魅力的だ。

 

アイリスへの手紙 [DVD]

アイリスへの手紙 [DVD]

 

 

 

 アイリス(ジェーン・フォンダ)は、製パン工場で働く中年女性。長い看護の末に8ヶ月前に夫に病気で先立たれ、ハイスクールに通う娘と小学生の息子を女手一つで育てている。おまけに、夫が失職した妹夫婦も転がり込んでいる。生活に疲れ希望を見出せない日々。スーパーから、買い物袋を両手に抱えて家に向かうシーンが繰り返し出てくるが、ついつい下を向き、ため息をつく姿が印象的だ。 

 ひょんなことから知り合ったスタンリー(ロバート・デ・ニーロ)は、同じ工場の食堂に勤めるコックで、口数が少なく、控えめな中年男性。

 互いに魅かれるものを感じるが、スタンリーにどこか踏み込めないものを感じていたアイリスは、ある日、スタンリーが非識字者であることに気づき、それがもとでスタンリーは失職する。収入がなくなったスタンリーは、同居していた父親を老人ホームに入れるが、数週間後、父親は施設で死亡する。老人ホームが送ってきた通知が読めなかったため、父が亡くなったことも知らずにいたスタンリーは、施設を訪れ呆然とする。自責の念に駆られたスタンリーは、ふりしきる雨の中、工場帰りのアイリスを捕まえて、ようやくの思いで、「字を教えてくれ」と頼み込む。このシーン、バスに乗り込むアイリスに、びしょ濡れになりながらすがるような表情をみせるデ・ニーロは、やはり上手い。

 非識字者への差別、出口の見えない貧困、シングルマザー(娘が妊娠、出産)、DV(妹夫婦)。この映画は、アメリカの社会が抱える問題を背景にストーリーが進んでいく。

 一家の働き手として、母として、姉として、奮闘しながらも、女としての自分の孤独と虚しさに、アイリスの心は揺れる。スタンリーに、読み書きを教えながらも、自分の気持ちを整理しきれない。ジェーン・フォンダは、中年女性の孤独、不安、逡巡、微妙な心の動きを、豊かな表情で熱演している。  

 だが、読み書きができないスタンリーが、機械の発明という意外な才能を持っているという設定はあまりに無理がある。紆余曲折を経て、読み書きを身につけたスタンリーが、成功を手に入れてアイリスを迎えに来るというハッピーエンドの結末はあまりに都合が良すぎる。これでは、高校を中退し、製パン工場の制服を身につけて現れた、シングルマザーの娘に、「これでいいの?ここには未来がないのよ」と叫ぶ、アイリスの言葉は、なんだったんだということになる。主演の二人の演技を楽しむにはよい映画だが、ストーリー的には甘く腰砕けの感がある。

《監督》マーティン・リット 1990年 アメリカ映画

 

 

追記

 スタンリーがなぜ非識字者になったか、というあたりは興味深い。

 父がセールスマンで、あちこちを一緒に転々とする。家はなく、モーテルでの生活。転校は50校以上。夜は父親と遅くまでテレビを見るか、ポーカーをして過ごす。学校では授業中眠っている。先生に当てられて、笑ってごまかすと、先生は答えを待たずに次の子に。だから、また眠ってしまう。これが、映画の中でスタンリーが話した子ども時代の姿だ。

 移民国家、多民族国家であるアメリカだから、これとは違った深刻な問題もあるのだろうということが想像出来る。

 翻って日本はどうか。識字率が世界一だというが、ただ、読み書きができるだけで、誇ることができるのだろうか。

 不登校、虐待、家庭の不和、貧困、無理解。子どもたちの現状を見れば、すぐ近くに、いつも下を向いてやり過ごしている、幾人ものスタンリーがいるのは確かなことだ。

 

kssa8008.hatenablog.com

 

 

kssa8008.hatenablog.com

 

 

 

帰郷 [DVD]

帰郷 [DVD]