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『武士の献立』 上戸彩のメタモルフォーゼ

『武士の献立』

 上戸彩は、いつからこんなにせつない表情をする女優になっていたのか。いや、表情だけではない。夫を死なせないために、刀を持ちだして逃げるシーンでは、全身から人を思うせつなさが伝わってくる。テレビドラマの『昼顔』の時、突然変異かと目を見張った記憶があるが、この映画の時に、すでに、上戸彩はメタモルフォーゼしていたのだと気付いた。以前は、元気な愛らしい女優だというだけで、演技はごく平均的な印象しかなかった。『武士の献立』は、どちらかといえば家庭ドラマ、人情ドラマのジャンルに入る映画だが、そういう映画で、彼女から目が離せなくなるというのは、私にはちょっとした事件といってよい。

 

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 映画は、加賀藩の料理を仕事とする武士、包丁侍の一家の物語である。江戸で、加賀藩の側室に女中として使えていた天涯孤独な身の上の春(上戸彩)は、抜群の味覚と料理の腕を買われて、包丁侍の舟木伝内(西田敏行)に、息子の嫁になってくれないかと懇願される。勝気な性格が災いして嫁ぎ先から一度離縁されている春はためらうが、伝内の熱意にほだされて加賀の舟木家へ嫁ぐ。

 夫である、安信(高良健吾)は4歳年下で、兄の突然の死によって巡ってきた家督を継いだが、料理より剣に未練をもっていて包丁侍の仕事に身が入らない。最初はギグシャクとするが、春は持ち前の明るさと行動力で、夫に料理を手取り足取り指導していく。

 

 映画のセットがなかなか見事で、特に台所は時代考証などもきちんとして作ったのだろうな思わせる重厚な作りだ。侍が料理を作る、というのも今までになく新鮮で面白い。物語の背景に、加賀騒動が組み込まれており、友人夫婦との交情や因縁、お貞の方の顛末など、物語は丁寧に作られている。

 上戸彩は襷がけをしたり、まな板の前に立ったり、というシーンが多いのだが、立ち居振る舞いがなかなか美しい。和服姿が身にあっている。

 最初は、勝気な、どこか色気のない元気な娘という感じに見えていたのだが、嫁いで夫に料理を教え、次第次第に夫に惹かれて、離れがたい愛情を感じるようになる頃には、匂いやかな若妻に変容していく。そして、謀反に加わろうとする夫を止めるために、春が思い余って、刀を持ち出すシーンでは、上戸彩の見せるひたむきさ、せつなさに心奪われる思いがする。

 

 この映画が2013年で、『昼顔』が2014年。彼女は、どこで新しい服に着替えて、別人に変容したのだろう。

《監督》朝原雄三  2013年公開

 

追記

・高良健吾は、誠実な男がよく似合う俳優。どの映画に出ても印象深い演技をする。 

・よく練られた脚本で、姑役の余貴美子やお貞の方の夏川結衣、柄本祐、成海璃子など脇も手堅く、映画自体は上々の出来。ただ、これだけ台所や料理が出てくるのだから、例えば饗応料理を披露する場面で、もう少し料理そのものを見せる工夫があっても良いのかもしれない。まあ、料理自体がテーマではないから『バベットの晩餐会』のようにはいかないだろうが。

・北國新聞創刊120周年記念映画だとか。能登の風景も出てきて旅情をそそる。ますます金沢に行きたくなった。

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