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日付のない便り

日々のとりとめのない覚書 映画や読書 そして回想

「柘榴坂の仇討」  えっ! 「キョウジ?」「ケンシン?」

 なんの予備知識もなく見始めたのだが、よい映画だった。最近の映画では、めずらしい、時代劇らしい時代劇だとも思った。だから、なおさら、時代劇は難しくなってきているのかな、とも考えたりした。

 

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 冒頭、籠の行列が賊に襲われる場面から始まる。警護をする武士は、刀を覆った袋の紐がほどけず、刀も抜かずに無残にも斬られる。その瞬間、目がさめる。悪夢。まだ、薄明。何度も見る夢なのだろう。明治5年のテロップ。粗末な布団にそれぞれがくるまる夫婦。夫はまだ髷を結っている。夫に背を向けて静かに寝ている妻の肩口が寒々としている。夫は自分の布団を妻にかけてあげる。妻は疲れているのか、それに気づかない。

 なかなか巧みな滑り出しから、虚実織り交ぜながら、ドラマは進行していく。彦根藩士志村金吾(中井貴一)は剣の達人として、大老井伊直弼の警護につきながら、おめおめと一人だけ生き延びる。息子を恥じて両親は自害。金吾は、切腹を申し出るが許されず、下手人を討ち取って首を井伊直弼の墓前に供えることを命じられる。離縁に応じず、妻セツ(広末涼子)は、本懐を遂げるまで夫を支えることを選ぶ。やがて明治維新になり、廃藩置県が行われ、命を下した彦根藩そのものがなくなったにもかかわらず、金吾は仇を追い求める。やがて、一人だけ生き残った佐橋十兵衛(阿部寛)が直吉と名を変え、車引となっていることを突き止める。雪の柘榴坂、二人は激突するのだが。

 ざっとしたあらすじは、こんなところだが、この映画を、例えば、うちの息子(中三)に見せたら、きっと質問の嵐になるのでないかと思う。

・金吾はどうせ死ぬ気だったんだから、無理やり切腹すればいいじゃん。

・藩がなくなったのに、仇討ちを続けるというのはガンコすぎる。

 ちょっと頭が硬いんじゃない。

・要領悪スギ!結局、時代の流れを読めない迷惑人間。

・自分のメンツのために、奥さん働かして、これもなってないね。

・十兵衛はなんで遠くに逃げないんだ。維新のドサクサで大丈夫だったんじゃないの。

・なんか、ワザと追っ手が来ることを待っている感じがして変!

・セツはなんでこんなにがまんできるの。

 夫は全く働かなくて、自分だけ働くなんて、シンジラレナイ。

・どう考えても、仇討はムリって考えなかったのかね。

・あの頃は、女性は男性の言いなりだったてこと?

                           等々。

 

 もちろん、答えは映画の中にあるのだが、掴み取るのは結構難しい。

 金吾に仇討を続けさせ、十兵衛に日陰の道を選ばせたものは、武士としての矜持だ、といえば、私の世代ならそれだけで頷くかもしれないが、息子には矜持の意味から説明しなければならないだろう。

 セツの「ケンシン」は、といっても、「献身」の漢字が多分思い浮かばないだろう。いいな、と思う時代劇に出会うと、なおさら時代劇の難しい時代になった気がする。

 

 時代劇の広末涼子は初めて見た。花嫁姿の清潔さ、金吾の昇進の日に舅に酒を注ぐろうたけた美しさ、健気に尽くす芯の強い姿。どの場面でも、大人の女の魅力に満ちていて、これがあのヒロスエか、と驚かされる。最後の場面、くしゃくしゃの泣き顔と恥じらいながら手をつなぐ表情は少女に戻ったかのようになる。いつの間にか、日本髪が似合う女優さんになっていた。  

 

 中井貴一は、なんと繊細な演技をするようになったのか。内容を読み込む力に優れているのだろう。さりげない、どちらかといえば控えめな演技ながら、悲哀、逡巡、歓喜、絶望、決意等々、その時々の心の動きが、手に取るように伝わってくる。現代劇も、時代劇も、シリアスなものも、コメディもこなすオールラウンダー。この年代の男優のトップランナーだろう。

 

 阿部寛には、映画のサイズがよく似合う。この人の体の大きさは、スクリーンでこそ説得力を発揮する。決して器用な俳優ではないが、何を見ても水準以上の演技をしている。この映画でも、中井貴一を相手に達者な演技であり、彼もトップランナーに迫ってきているのがわかる。

 

 原作は浅田次郎の短編小説。仇討禁止令を絡めるあたりは原作の通りなのか。浅田次郎はしばらくご無沙汰しているのでわからない。

 結末は、少し甘やかな気がする。年をとって後味のわるいものが鼻につくようになったので、私にはちょうど良いが、物足りないと感じる人も多いかもしれない。

 

2014年公開  監督:若松節朗  

 

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