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BS日テレ「土俵の神々~大相撲名力士伝説~大関・貴ノ花と5人のライバル」は、相撲ファン必見の番組だった。

 

 大した期待もしないで見始めたこの番組、相撲ファンにはたまらない、実に見ごたえのある好番組だった。

 司会は日テレの藤井恒久アナ、増位山太志郎、花田虎上、草野仁。

 BSだからなのか、話の内容もガードが緩い。内輪話、技術論、力士の寸評、知られざるエピソードなど、花田と増位山の話はどれも興味深く、時に鋭い。最後に花田虎上が見せた弟への微妙な感情に触れる際の複雑な表情などは、おそらく地上波ではなかなか見られない。

http://www.bs4.jp/guide/document/takanohana/img/title_11.jpg

 

 BS日テレのサイトにはこんな番組紹介が載っている。

 力士としては細身の体型ながら、驚異的な粘り腰と甘いマスクで「角界のプリンス」と呼ばれ、大相撲の歴史上、また日本のスポーツ史上屈指の人気を誇った大関・初代貴ノ花。ライバルとの激闘を追いながら、その生涯をたどります。

 

 5人のライバルは、輪島、高見山、北の湖、千代の富士、そしてあと一人はちょっとひねってあって花田家、という構成。往年の名勝負が次々へと披露される。

 

 

 往年のと書いたが、この時代の相撲は私はほぼリアルタイムで観ている。中学、高校と私の周りには相撲とプロレス好きがたくさんいた。相撲は毎週はやらなかったから、プロレスより頻度は低いが、学校や通学中の格好の話題となった。リアルタイムでと書いたが、中高と部活に入っていなかった私は相撲の見れる時間には、家に帰っていたし、高校2年になって帰りが遅くなったが、そのころは大相撲ダイジェストがあったので、幕内の取り組みは大体見ていた。

 私は貴ノ花は5歳下、北の湖より1歳下だから、あの熱狂的な相撲人気の中で自分のことのように、毎場所テレビにかじり付いていた。

 小学校の頃に、大鵬、柏戸あたりは見ていただろうがはっきりと記憶があるわけではない。横綱でいうと、玉の海、北の富士、琴櫻あたりは記憶にある。玉の海の急死、一人横綱になった北の富士の踏ん張り、奇跡的といってもよい琴櫻の覚醒。琴櫻の左のど輪、右おっつけは学校で真似する奴がいた。

 その頃台頭してきたのが、貴ノ花、輪島などの若手力士。番組紹介にあったように、特に貴ノ花の人気は絶大だった。

 私の周りも、貴ノ花が断然の人気。強くなるのは輪島だ、いや左の下手投げでは横綱には遠いとか、なかなか皆うるさかった。他にも、魁傑、長谷川、黒姫山、三重の海、旭国、麒麟児など、個性的で生きがいい若手がいっぺんに出てきた時代だ。

 さて、横道にそれ過ぎた。番組の話に戻ろう。

 

 番組では、次から次へと貴ノ花とライバルの熱戦が流されるが、それを見つめる花田の表情が印象的だ。時に息子の目になり、時に力士の、横綱の目になる。貴ノ花と高見山の一戦で、貴ノ花がどんな相手にも真っ向勝負だったという話になる。生涯1回しか変化していない、と花田が付け加える。そこで、若乃花と曙の取り組みが流れる。似てますね、と聞かれて、花田は照れたように、いや違います、だから僕は横綱になれた、とサラッとコメントがある。

 北の湖戦が流れると、北の湖についてはどうおっしゃってましたか、という質問がる。あの腹が厄介だと言っていた、とこれもサラッという。さらに続けて流された北の湖との取り組みを見て、あの体型、あの腹であの柔軟性がすごいとポロっと話す言葉に力士だったものの実感がこもっている。

 貴ノ花の最大の決め技だった吊りは何度も出てくるが、増位山が貴ノ花は自分のまわしを相手のまわしの下に入れて、梃子のように力を使っているという指摘をする。勝つためにはなんでも利用するよ。下がりを掴むとまわしと同じくらい効果があるんだ。花田がうなづく。どれもこれも、話が面白い。

 北の富士との突き手かかばい手かという因縁の一戦についても、増位山はあれは突き手だという。大体、審判員が四つ相撲か押し相撲かによって、見解が違ってくることがある。四つ相撲は、体が残っている派だ。俺は体が残っている派だ。花田がこれも頷く。ところが、次の場所の貴ノ花のうっちゃりには花田が異論を唱える。あれは、負けている。なぜですか、司会が尋ねる。突き手かかばい手かの取り組みは、つま先で残っているが、これはつま先が浮いている。かかとでは残せない。増位山はすかさず、そんなことはない、かかとでも残せるよ、と異議を唱える。

 そのほかにも、輪島は力士というより子どもだった自分にはただの変なおじさんだったとか、土俵際で外掛けにいくなって散々いわれたのに父は自分ではやっているとか、父は胃が女性並みの大きさしかなくて太れなかった、とか面白い話が多い。増位山も、同部屋だった北の湖の逸話を懐かしそうに話す。彼が花田と話かわす顎の使い方やまわしのとる位置とかの技術論は相撲の奥深さを感じさせる。

 2時間の番組だから細かく書いていけばきりがない。

 中でも、最も印象に残ったのは、貴ノ花とタバコの話だ。司会が貴ノ花は千代の富士を随分買っていたそうですね、千代の富士は、俺は止められなかったけどタバコを止めれば太れるぞ、と貴ノ花にいわれて、タバコをやめてから体が大きくなったいう逸話があるそうですね、と花田に尋ねる。聞いてます、と淡々と答える花田。それから、つけたすように、でも自分はやめられなかったのにね、と苦笑する。それが、どうにも悔しそうに見えるのだ。千代の富士との最後の取り組みを見ながら、もう背中の筋肉が落ちている、とポツンと貴ノ花の肉体の衰えを指摘する花田の感慨は深い。

 もう一つ、千代の富士が引退を決意した、弟、二代目貴ノ花との取り組みが流れた後のことだ。司会の藤井アナが言いづらそうに感想を聞いた。半分出来レースだろうが、互いの確執という事実を受け止めるように、照れたような、だが真剣な顔になって、花田は答える

「ああ、これでこの子はスーパースターになっていくんだなと思った」

 この子、という表現の仕方がなんとも言えずに寂しく聞こえる。

「できれば、自分も千代の富士関とやりたかった」

 この時は、やはり力士の顔であった。

 

 世上、いろいろ噂されている弟との確執についてはどうだかわからないが、番組を見ている限り、技術へのするどい分析、勝負への厳しいこだわり。花田は決して相撲への情熱が薄れているわけではないように思えた。その聡明さが際立って見えるがゆえに、タレントをしているのが惜しく思える。「いい師匠がいればいい力士が育つ」というようなことを、最後に話していたが、この人が相撲界にいないということは、大きな損失なのかもしれない。

 

 話が花田虎上の方へずれていってしまったが、番組を見ているとあの頃の相撲は掛け値なしに面白かったのがわかる。吊り出しもうっちゃりも今の相撲ではほとんど見られない。前捌きの上手い力士というような言葉も聞かなくなった。この力士だからにはこの技、というような型をもつ力士も少なくなった。大型化した力士の世界では、またそれに見合った新しい勝負、新しい技術があるのかもしれないが、オールドファンには少し物足りなさを感じることも多い。

 貴ノ花の強靭な足腰、輪島の強烈な左と土俵に吸い付くような足捌き、北の湖の無尽蔵のパワーとしなやかさなど、番組を見ながら、改めてあの時代の相撲の面白さを堪能した。

 番組が終わって、気がついたのは録画をしなかったことだ。再放送があればよいのだが。

 

 

※ちなみに、私は、三重の海の熱狂的なファンだった。友達からは、エー、なんで三重の海なの、とか渋すぎるなどと言われていたが、ファンであることに理由も遠慮もないのは今も昔も変わらない。とにかく、誰がなんと言おうと三重の海ファンだった。だから、優勝して大関になった時は、大酒を飲んだ。大関から陥落した時は、テレビが見られなかった。横綱になった時は狂喜乱舞した。横綱になって2場所連続優勝した時は鼻高々だった。すぐに引退だったが、それはそれでよい引き際だ思った。親方になって、理事長にまでなるとは思わなかったけど。

 非力だが、巧みな前捌きで前回しをとって一気に寄り切るというような取り口の力士は、今はあまり見かけなくなった。貴ノ花だけでなく、今度はあの頃の相撲を別の角度から特集してくれないかな。

 

 相撲の本はたくさんあるのだろうが、私の本棚には2冊しかない。「横綱」は読了。「国技館」はまだ未読。

 

横綱 (講談社文庫)

横綱 (講談社文庫)

 

 

 

国技館: 大相撲力士、土俵の内外 (河出文庫)

国技館: 大相撲力士、土俵の内外 (河出文庫)

 

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