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日付のない便り

日々のとりとめのない覚書 映画や読書 そして回想

「湯を沸かすほどの熱い愛 」を観る 確かに沸かされた湯は熱かったけれど……

 妙な題名だなと思っていたが、見終わってみるとなるほどと思う。

 映画の作りは丁寧で映像も美しいし、テンポよく画面が進んでいく。宮沢りえ(双葉)、杉咲花(安澄)、鮎子(子役の伊藤蒼)、一浩(オダギリジョー)と、それぞれ演技もなかなかすばらしく、いろいろ感心するところがあるのにどうもすっきりしない。はて、なぜなんだろう。画面を見ながら、私はずっとモヤモヤとしていた。 

 

湯を沸かすほどの熱い愛 通常版 [Blu-ray]

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 監督は男性のようだが、この映画、男性の中には私のように見ていて尻が落ち着かなくなるような気がする人も多かったのではないか。

 余命を宣告された演じる母の覚悟、強さ、ひたむきさが娘との繊細なエピソードの積み重ねによって、見るものに迫ってくる。最初はひ弱だった娘も、母の願いをしっかりと受け止めて次第に成長していく様子が丹念に描かれていく。

 だが、オダギリジョーの演じる父親が出てくるあたりから、落ち着かなくなってくる。この父親、よく言えば自由すぎるのである。こんなにかっこいい必要があるのかなと思う。もっとジタバタしたり、うつむいたり、喚いたりするのが本当なのじゃないか、出奔して1年ぶりに戻ってきて、しかも子連れで、平気に食卓に座るというのは、どうなのだろう。そういう人だから、逆に魅力もあるのだという声もありそうだが、実際の生活を考えたら、単なる極楽とんぼで、しかもけっこうな年齢なのだから始末が悪い。

 実は、見逃したのかもしれないが、私には、双葉(宮沢りえ)と一浩(オダギリジョー)の間の情愛の部分がほとんど感じられなかった。極楽とんぼでも、人それぞれだから、双葉が好きになっても、一緒になってもよいのだが、そのあたりが親子愛や病への準備や戦いに隠れたのか、うまく伝わってこない。ただただ、オダギリジョーは自由(?)でかっこいい、というのでは見ている男たちはやっぱり尻の辺りがモゾモゾしてくるのではないか。まして、親子関係の秘密が分かった後では、なんだ、これでは話を複雑にするためにいるのか、と茶々を入れたくもなってくる。

 

 また、銭湯という斜陽産業を舞台としながら、生活や金銭的なものは、全く出てこない。物語の視点を絞るために、あえて削ぎ取っているのかもしれないが、どこか浮世離れしている感じがする。一浩(オダギリジョー)が極楽とんぼでいられるのも、訪ねてきた拓海(松坂桃李)が、そのまま従業員として居座るのも、自然なようでどこか現実的でない。

 

 そもそも、親子の愛を描くために、これほど複雑な親子関係の設定が必要なのだろうかという根本的な疑問がよぎる。双葉(宮沢りえ)と安澄(杉咲花)、双葉と捨てた母(りりい)、安澄と実の母(篠原ゆき子)、双葉と鮎子(伊藤蒼)と、様々な親子関係が描かれている。関係を複雑にしたからといってリアルになるわけではない。むしろ、いろいろな不自然さが際立って、せっかくの湯の温度が下がるように思える。また、この設定は、血の繋がり以上に大切な繋がりを示唆しているように思えるが、どこか曖昧なメッセージのまま終わっている。

 

 それに、ここで描かれる親子関係はあくまでも母と子のもので、父親については希薄である。この映画では、男は状況やストーリーを成り立たせるためにのみ、必要な存在でしかない。もちろん、父親の子どもへの愛情も、母親以上に熱いこともあるわけだが、ここでもオダギリジョー、自由でかっこいいだけだ。これって、どうも釈然としない。

 

 瀕死の双葉が、探偵の調査によって見つかった、自分を幼児のときに捨てた母に会いに行くシーン。会うことを拒まれ、門から窓越しに家のなかをのぞく双葉。夢にまで見た母(りりい)が娘らしい女と孫らしい子と談笑している。しあわせそうな姿。それを見て、思わず門の上にあった置物を投げつける双葉。このシーン、私には、どうにも、唐突で咀嚼しづらい。こんなものなのだろうか、という違和感が抜けない。

 

 旅で知り合った青年拓海(松坂桃李)の存在もどうなんだろう。穏やかで物分かりがよく、優しい人柄。いれば、なんとなく都合がいいのだ。だが結局、彼は何かをもたらしたり与えたりしない。この青年も、実にかっこいいが、見ているとやっぱり尻の辺りがかゆくなってくる。

 

 死という事実は、年齢とともに、私にもずいぶん近しいものになったが、この映画のように、ある意味整然と整理されて大団円を迎えるということは少ないのではないかと思う。自分にも、周りにも、もっと、ザラザラしたものや、トゲトゲしいものを残して、時にそれを是認しながら、時に無念のまま最後の時を迎える、そんなところではないかとこの頃考えている。

 

 初めに書いたように、映画としてはよく整っていて、伏線も巧みだし、結末の意外さは賛否両論あろうが私は面白いと思う。宮沢りえの演技は、世評通り、迫真に迫るものがあるし、脇役陣も好演で見応えのある映画なのだ。だが、この映画が伝えたいだろうメッセージは、私の中にはすっきりそのままは入ってこなかった。 

 確かに沸かされた湯は熱かったけれど、私は心から温まることはできなかった。

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