日付のない便り

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「不機嫌な赤いバラ」を観る  シャーリー・マクレーンから目が離せない

 

 原題は「Guarding Tess」。「テスのお守り」というところか。見終わって久々に満足した。小品だが、なんとも洒落たコメディ。画面が進むに連れて、初めは身勝手で傲慢な婆さんにしか見えなかったシャーリー・マクレーンが、なんともチャーミングな愛すべき存在に変わってくる。ニコラス・ケイジのちょっと間の抜けたように見える馬面(失礼!面長な顔というべきか)も、次第に引き締まって、頼もしいものに見えててくる。

 

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 元大統領の未亡人で、隠居生活をおくるテス(シャーリー・マクレーン)と、彼女の身辺警護をするシークレット・サービス、ダグ(ニコラス・ケイジ)が主人公。ダグは刺激の少ない元大統領未亡人警護の任期が終わり、遣り甲斐のある新しい任務を望んでワシントンに戻るが、大統領の直々の要請で再びテスの身辺警護の続行するように命じられる。テスが現職の大統領に電話をして、ダグの警護に固執する。

 なぜ、テスはダグの不満や反発を理解していながら、強引にダグの警護を求めるのか。これまで外に出かけなかったテスが、積極的に外に出るようになったのか。堅物でルール重視のダグが、気まぐれで奔放なテスに振り回されながら、どうしてテスに心を開くようになったのか。ストーリーの展開とともに明らかになっていくのだが、シナリオも演出も細やかで、伏線もよく利いている。

 そして何よりもシャーリー・マクレーンを時々に変化する表情が素晴らしい。

 気難しく、皮肉屋で、横柄で、強引な老婦人。だが、一歩外に出ると、絶大な国民的人気がある。現職の大統領に電話一本で頼みごとができるほど、隠然たる力を持っている(ただし、人気も影響力も衰えていることには気づいてもいるし、寂しさも感じている)。

 夫の大統領は病死。夫と二人三脚で政治一色の生活をしてきたので、子育てもうまくいかず、息子と娘がいるが疎遠になっている。隠居生活は孤独に苛まれながら性格的に、気弱なところを人に見せることができない。

 企業を経営するダメ息子が久々に訪ねてくる。思わぬ来訪に息子に媚びるような笑みを浮かべて迎える母の顔。その息子から、傾きかけた自分の会社の広告塔になってくれという頼みを静かに断る時の悔恨の表情。ダグに、夫の浮気はもちろん知っていたのだと告げた時の諦念の表情。一人、寝室で栄光の時代の録画を見ている時の寂寥と孤独。オペラの鑑賞の後、テスを待ち受ける観客の熱い歓声に、不機嫌な顔を豹変させて、満面の笑みで投げキッスをする天真爛漫な表情。そして、余命を知りながら、不安を隠して、日々に生活を送る元ファーストレディとしての矜持に満ちた表情。

 この老女優から目が離せない。初めはテスの理不尽な振る舞いに手を焼き、反発していたダグが、次第にテスを理解し、心を開いて、かけがえのない存在として懸命の警護をしていくようになる過程が無理なく伝わってくる。最後の事件も、よく考えてみれば無理はあるが、見ている間は不自然さは感じなかった。

 この作品は1994年の公開だから、シャーリー・マクレーンは60歳を過ぎた頃か。邦画には、老女優が主演する映画はなかなかない。特に、シリアスなものはまだしも、こういう洒落た味わいのコメディとなるとまずお目にかかれない。

 高齢化社会になっていて、需要が全くないわけではないと思う。現に老年の私がこの映画を見て楽しんでいる。こういう温かい気持ちになれる映画は精神衛生上も好ましいと思う(もちろん、若い方が見れば、また違った楽しみを得られるだろう)。

 老いを迎えた、だが誇り高き女性を演じられる主演女優を我が国は持っていないのか。テレビドラマの「やすらぎの郷」などを見ていると、決してそんなことはなと思うのだが。

 なお、「アパートの鍵貸します」「あなただけ今晩は」の女優は、今年、83歳で健在らしい。

 

 1994年公開 監督 ヒュー・ウィルソン

 

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※ 若きにニコラス・ケイジも好演。美男子ではないが、どこか、ぬぼっとしているところに味わいのある俳優である。

※ 父の入院、身体の不調など、私事多忙、多難で更新が滞ってしまった。まあ、無理しても仕方がないので、ボチボチ更新していきます。

 

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