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「新・平家物語」を観る  市川雷蔵のゲジゲジ眉毛

 この映画で平清盛を演じる市川雷蔵はゲジゲジ眉毛だ。端正な顔と不釣り合いな、いかにも作り物めいた、この眉毛に、最初は強烈な違和感があったのだが、映画が進むにつれてあまり気にならなくなった。雷蔵はどちらかといえば華奢で荒々しさには程遠い。ゲジゲジ眉毛は、力強く、気迫に満ちた、溌剌とした清盛像を作り上げるための小道具だったのであろう。当時、雷蔵は24歳、繊細な心情を内包しながら、武士の棟梁としての野心と覚悟に満ちた新しい清盛像を見事に演じている。出世作というのも頷けるものがある。

 

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 1955年公開。溝口健二監督の作品である。原作は吉川英治の長大なベストセラー小説「新・平家物語」。とはいっても、この映画は若き日の平清盛の活躍を描くことに終始している。活躍といっても、さほど勇壮な場面が多くあるわけではない。

 朝廷や藤原氏の理不尽な扱いに、苦渋と忍耐を重ねながら、着実に力を蓄えていく、父、忠盛(大矢市次郎)の姿を見ながら、清盛の情熱と覚悟は次第に確固たるものになっていく。出生の秘密にまつわる苦悩や時子(久我美子)との恋模様を絡めながら、武士の棟梁として台頭していく清盛を、比較的ストレートに描いていく。

 格調は高いが、どちらかというと平板で起伏が少ない。溝口作品としては最晩年の作品であり、名作、秀作とはいえないのだろうが、丹念に作られており、見応えはある。

 特にクライマックスの叡山の僧兵が京に強訴するシーンは、今の映画ではちょっと見られない。松明を掲げて山道を下りてくる僧兵の膨大な人数と迫力は、どうやって準備をしたのか、撮ったのか、驚くばかりの圧倒的な質量である。今なら、CGでなんとでもなるよ、という声も聞こえてきそうだが、本物の迫力はまた格別のものがある。

 女優としては清盛の母である祇園女御を演じた木暮実千代が印象深い。奔放で功利的、時に小狡く、時に哀れで、だがしぶとく生き抜く「悪女」を演じて堂々たるものである。

 

 勝新太郎が、いつでもどこでも勝新だった(それがたまらない魅力なのだが)、のに比べると、カツライスの一方、雷蔵は、映画によって、役によって変幻自在だった。時代劇でも「眠狂四郎」「忍びの者」から股旅物や「華岡青洲の妻」などの文芸もの、現代劇でも「陸軍中野学校』「ある殺し屋」から「炎上」「ぼんち」まで幅広く、ぴったりはまって、これは雷蔵でなくてはと、思わせてしまうところがある。

 そういえば、映画に出ていない普段の雷蔵は、まったく目立たなかったらしい。雷蔵は、映画によって、役柄によって、見えないゲジゲジ眉毛を身につけていたのだろう。

 1955年公開 溝口健二監督 (大映)

 

後記

 「新・平家物語」は三部作として作られている。

第二部  1956年公開

「新・平家物語 義仲をめぐる三人の女」衣笠貞之助監督 長谷川一夫主演

第三部  1956年公開

「新・平家物語 静と義経」島耕二監督 菅原健治

 

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