日付のない便り

日々のとりとめのない覚書 映画や読書 そして回想

BS1「アスリートの魂 いつだって その“心”で~大関 栃ノ心~」を観る  にわかファンが、本当のファンになった

 秋場所の鶴竜対栃ノ心の取り組みには本当にびっくりした。横綱鶴竜は10戦全勝。カド番大関栃ノ心は6勝4敗。これからの対戦相手を考えるとあとがなかった。立ち合い低くあたった鶴竜は、双差し。絶体絶命の栃ノ心は、肩越しに両上手をとり、苦肉の策とも言える外四つ。驚いたのは、土俵中央なのにそこから、強引に吊りあげて前に出る。横綱は土俵際で一度堪えたが、そのまま再度吊りから寄り切った。驚くべき怪力。そんなに熱心に相撲を見続けているわけではないが、横綱をこんな形で吊り上げた相撲はあまり記憶にない。横綱も呆然とした様子だった。

f:id:kssa8008:20180929140351j:plain

 栃ノ心は、私にとっては気になる力士ではなかった。ツボにはまれば底なしの力を発揮するが、不器用で小回りがきかない。実力者だが、横綱、大関には歯が立たない。三役と幕内上位を行ったり来たりで終わるのだろうと思っていた、まさかあれほど鮮やかな優勝をすることも、大関になることも予想外のことだった。だから、ここ数場所のにわかファンに過ぎない。

 

 番組は、カド番の15日間に焦点を当てて密着している。先場所、休場の原因になった右足親指の状態は思わしくない。稽古場でも、まったく目が出ない。強く当たることができない。初日が近づくにつれて、焦燥の色が濃くなる。自分の不甲斐なさ、ままならぬ動きに思わず声が出る。師匠の春日野親方(元関脇 栃乃和歌)は、言葉少なに見守る。親方はいう。栃ノ心は、そんなに弱い「心」ではないと。

 

 栃ノ心の大関昇進の際の口上がちょっと話題になった。

「謹んで、お受けいたします。親方の教えを守り、力士の手本となるように稽古に精進します」

 四字熟語もことわざも使っていないシンプルなものだが、「親方の教えを守り」がこれまでにない異色なものだった。三十歳を過ぎたベテランの力士の口上としては、あまりに初々しい。異国で一から相撲を教えてくれた感謝の気持ちをどうしても伝えたかったのだという。春日野親方は、なんとも眩しそうな顔をして記憶がある。。

 その親方が栃ノ心に、常にいってきたのは「前に出る強い心」だという。番組の中でも、稽古場で親指が怖くて当たれない栃ノ心に、親方が前に出ろ、と叱咤している光景があった。

 栃ノ心はカメラの前でも、本心を素直に吐露する。カド番を脱して、部屋で他の力士に祝福され安堵の声を上げる。本当に苦しかった、と涙する。車の中で、大関を落ちるのが本当にこわかった、とつぶやく。もう一度優勝してみたいなあ、と遠い目線を送る。

 この番組を見て、にわかファンは本当のファンになってしまった。

 

 今場所は白鵬が優勝して幕内1000勝の偉業を成し遂げた。だが、少しも盛り上がらない。確かに強いし、稽古をしっかりして精進しているのは確かだろう。

 だが、以前問題になった立ち合いが今場所も目に余るものがあった。張り差しはまだいい。だが、自分の間になるまで待ったを繰り返す立ち合いは、横綱としてはあまりに見苦しい。特に高安戦はひどかった。94歳になる私は父は白鵬は汚い、と吐き捨てた。

 勝負だから勝ちに辛いのは仕方がない、戦略だ、それが上手さであり、技術だという人もいるだろうが、素人である私たちからすれば、父のような見方になるのだろう。

 新聞の記事やテレビの解説で、そのことに触れたのはやくみつると花田虎上ぐらいだろう。花田は笑いながら、うまいというかずるいというか、というような表現をしていた。

 白鵬は東京オリンピックまで横綱でありたい、という希望を述べていた。白鵬には、どのように勝ち続けるが問われてきているように思われてならない。

 

 私は若い頃、三重ノ海の大ファンだった。三重ノ海は在位わずか8場所。だが、ファンとしては横綱として2場所連続優勝した三重ノ海を今も誇りに感じる。大横綱ではなかったかもしれないが、横綱を張るというのは、本人も見ているものにも特別なことなのだろう。

 

 栃ノ心は年齢も年齢だから、仮に横綱に昇進したとしても短命に終わるかもしれない。それでも、この遠い異国から来た真摯な努力を続ける力士には横綱になって欲しい。番組を見終わって、心から応援の拍手を送りたくなった。

次の記事も、よろしければどうぞ。 

kssa8008.hatenablog.com