日付のない便り

日々のとりとめのない覚書 映画や読書 そして回想

また夢の話。

 いくつか前の記事で悪夢の話をした。また夢の話になる。

 

 思いがけない夢を見た。Wという女生徒と教室で面談をしている夢だ。私が中学校でWの担任をしていたのは、もう、30年も前のことなのだが、夢の中の私はもちろん若い。私は、眠りながらクスクス笑っていたらしい。

 

ハセガワ 1/12 フィギュアアクセサリーシリーズ 学校の 机と椅子 プラモデル FA01

ハセガワ 1/12 フィギュアアクセサリーシリーズ 学校の 机と椅子 プラモデル FA01

 

 

 その頃、転任して、2年生のクラスの担任を持った。まだ、生徒数が多くて1学年9クラスだった。始業式の次の日から、放課後に、クラスの生徒とミニ面談を組んだ。名簿の順に一人3分ぐらい。目的はいくつかあった。

 顔と名前を一致させること。  

 私は、体も大きく顔も怖く取っつきが悪い教師だったので、面と向かって気楽に話すことで担任に慣れてもらうこと。

 生徒のデータはクラス分けの時にもらっているが、気になる点を確認しておくこと(特に身体的に配慮することなど)。

 

 何しろ3分程度だから、一人一人はあっという間に終わる。

 こんにちは。

 はい、座って。

 何々さんだね。名前、間違ってないよね。

 何部なの。ポジションは。レギュラーなの。

 好きな教科は何?苦手な教科は?

 どんな係をやりたい?

 趣味は何?好きな食べ物は?などなど。

 教室の生徒の机に向かい合って面談を進める。順番待ちの生徒は廊下だ。ハキハキと答える生徒もいれば、おどおどと全く喋れない生徒もいる。これまで、全く話したことのない、いかつい顔の大男と話すのだから無理もない。

 腕時計を外して机の上に置いておく。なるべく3分を守るようにする。あまりの短さに拍子抜けしたような顔で席を立つ生徒も多かった。最後の質問は決まっている。

 担任に(つまり、私に)何か言っておきたいことがあったらどうぞ。

 この質問に答える子は少ない。

 

 Wは、1年生からの申し送りでは、なかなかの要注意人物だった。家庭は裕福だが、わがままで自己中心的な行動が多い。落ち着きがなく、洒落っ気が強く派手だ。色々しゃしゃり出てくるので、トラブルメーカーになっている。部活を一生懸命やっているのが救い、等々。他の生徒の倍以上情報がある。

 確かに、まだ二日間だけだけど、教室では一番目立っていた。声も大きいし、よく笑う。男女の別なく、相手の戸惑いなどに気がつくこともなく、無造作に話しかけていく。人懐っこくて、明るいが軽はずみ。髪の毛や服装も違反ではないがギリギリの線。どことなく危なっかしい。

 

 彼女はニコニコしながら、答えてたと思う。元来、愛嬌のある子なのだ。ただし、落ち着きはない。ミニ面談だから、一回に15人ぐらい。それでも、大体同じことを聞いているので飽きてもくるし、疲れてもくる。名前の順だから、彼女は面談も一番最後の方だったと思う。

 そこで、ちょっといたずら心が生まれた。少し茶化すように問いかけた。

 ところで、君って、1年生の時悪い子だったんだって。

 不思議そうな顔で、

 どうしてですか。

 私は、申し送りを受けた1年生の時のトラブルことをほのめかした。

 彼女は、顔を紅潮させて憤然とした様子で、叫ぶように訴えてきた。

 先生、わたし、悪い子じゃありません!

 私はその勢いに、びっくりした。

 そうか、悪い子じゃないのか。そうか、そうか。

 私は、思わず笑い出していた。

 彼女も照れたような顔をして、少し笑った。 

 

 Wにとっては、それは不本意な事実だったのだろう。何か、自分なりの言い分があったのに、誤解されていと感じたのだろう。彼女なりに、これから2年間は付き合っていく担任に(その頃、2、3年クラス替えなしの持ち上がりだった)、そんなことを言われてはたまんないと思ったのだろう。彼女は必死だったのだ。

 

 さて、予定通り、2、3年と私はWの担任をした。

 彼女は彼女のいう通り悪い子ではなかった。悪いことはけっこうしたけれど。 

 よく怒ったが、素直に怒られる子だったので、嫌な感じはなかった。だからギクシャクすることはなかった。怒るたびに、懲りないやつだなあ、とよく思ったが、悪いことをするのにも、たぶん彼女なりに一生懸命だったのだろう。そんな生徒だった。

 

 彼女は、若くして結婚し、すぐに二人の子どもの母となり、ゆえあってシングルマザーになった。私は結婚式に出席したので、親にでも言われたのだろう、離婚の報告にきた。私は、その頃、学校を離れ、市役所にいた。

 周りを気にしながら、隅の応接テーブルで話を聞いた。話終わって帰るときに、玄関まで送っていった。

 送ってもらってすいません、と言って、それから彼女はか肩を揺すって泣き出した。顔が真っ赤だった。中学生に戻ったような泣き方だった。

 

 それ以後も、同窓会やら何やらで、何回か顔を合わせていて、彼女のその後の奮闘記も面白いのだが、それはまた別の話になる。

 

 今はもう、堂々たる中年女性(?)だが、夢に出てきたのは、もちろん、まだ、髪の毛を気にしながら、真っ赤になって、私は悪い子じゃりません、と何度も繰り返している中学生のWだ。夢では、面談がミニではなくて、やけに長いので、夢の中の彼女は、何度も同じ台詞を言うのだろう。それが面白くて、私は夢を見ながらクスクス笑っていたのだろう。

 Wにはいい迷惑だろうが、普段、悪夢にうなされることの多い私にとっては、ありがたい夢である。だからといって、彼女にお礼をいう機会も、もう、そんなにはないだろうから、今度また夢に出てきたら、おまえ、ずいぶんといい子になったな、と褒めてあげたいと思っている。 

よろしければ、次の記事もどうぞ。

kssa8008.hatenablog.com