日付のない便り

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「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」を見る  最新テクノロジー下の戦争はあまりに人間的な……

 最近は、どんな映画かとかより、誰が出ているかで映画を選ぶことが多い。この作品もヘレン・ミレンが出演しているので、CSで録画していたのだが、強烈なサスペンスにグイグイと引き込まれた。無人機ドローンによる遠隔攻撃を描いた映画だが、人間同士が直接戦う場面はない。だからといって、戦闘がすぐに始まり、あっさり終わるわけではない。最新テクノロジーである「空の目(アイ・イン・ザ・スカイ)」を通して行われる現代の戦闘も、関わりあう人間同士の葛藤を逃れられない。だから、緊迫したサスペンスが成立することになる。

 

 

  イギリス軍の諜報機関キャサリン・パウエル大佐(ヘレン・ミレン)はナイロビ上空を飛ぶドローンを駆使してロンドンから英米合同軍事作戦を指揮している。イスラム武力組織に潜伏している英国女性テロリストをケニアのナイロビで発見し、捕獲作戦にかかるが、大規模な自爆テロ計画の存在を突き止めた彼らは、ドローン・パイロットのスティーブに攻撃命令を下すが、殺傷圏内に幼い少女がいることが判明。

 少女を助ければ、テロリストは自爆テロを実行し最低でも80人以上の人間が死ぬ可能性がある。テロリストを殺害するために攻撃すれば、少女が死ぬ可能性が高い。誰もが究極の選択に迫られる。

 英米合同軍事作戦といっても、それぞれが違った場所にいる。

 パウエル大佐はロンドンの司令部にいる。上司であるベンソン中将(アラン・リックマン)は通称コブラと言われる国家緊急事態対策員会に詰めている。ここには、担当の大臣や官僚が集まっており、最終決定をする権限を持っている。

 実際の無人機ドローンの飛行や攻撃をするのは、アメリカ国内の空軍基地であり、そこから、パイロットが映像を見て攻撃する。攻撃とは、ボタンを押すことである。映像を分析をするのは、別の場所でハワイにあるらしい。そして、ナイロビには、工作員がいて、偵察や、捕獲、武力行使を行う。これらそれぞれの場所が共有する映像によって繋がっている。

 映画は多元中継のような形で進んでいく。ドローンの映像とその分析によって、事態は刻々と変化し、次第に難しい選択が迫られる。

 だが、この選択は遅々として進まない。誰もが責任を負いたくないからである。政治家は、権限を持っていても、組織の上の判断を求めて決断をしない。軍人は、作戦の遂行を迫るが、決定打を持てない。さらに、理想主義的なメンバーの反対などもあって、会議は混迷を深める。

 この多元中継的な設定と、無責任な政治家や官僚の優柔不断が相乗効果となって、見ていてどんどんイライラが増してくる。その上に、途中から投入された工作員(ジャマ・ファラ)の身にも危険が迫ってくる。見ているうちに、イライラ感は焦燥感に変わってくる。

 これはもう密室で繰り広げられる、軍事サスペンスなのだ。登場人物は誰もが、理想、責任、正義、モラル、などの名の下に、究極の二者択一を迫られる。だが、「現実」は無制限の時間を与えられているわけではない。

 パウエル大佐のとった非情の策は……。

 

 見終わってみると、ザラついた印象を受けるのは、その結末に賛否両論が考えられるからだろうが、映画自体はテンポもよく、多次元中継を手際よくさばいていく。

 このドローンも、無人飛行機、鳥型や虫型のドローンなどが駆使されていて、偵察の工作員が見つからないか、ハラハラした。新しい小道具の使い方がなかなかうまい。

 ただ、途中で首をひねったのは、アメリカのパイロットが少女が現場にいることを理由に、攻撃命令を拒否するところだ。軍隊で、あれは許されるのだろうか。現実的には、副パイロットに新たに命令を下すのではないのか。設定の根幹に関わることだから、どうにも納得がいかない。

 

 現代の戦争が、実際にここに描かれているようなところまで、進んだ状態なのかどうか、知識がなくて判断ができないが、テロリスト集団が町を支配する現場の雰囲気はかなり現実に近いのではないかと思わせる。現場に潜入し、虫型のドローンを操作する工作員の描写には、緊迫感が溢れている。

 遅々として進まない、責任のたらい回しに、イライラ、ハラハラしながら、理想とか正義とかでは簡単に割り切ることのできない戦争の現実に慄然とする思いがした。

 「世界一安全な戦場」というサブタイトルは、なんとも皮肉で秀逸だ。

 

 ヘレン・ミレンを見ると、日本の女優なら誰がこういう役をやれるだろうと想像してしまう。それは、いつもあまり思いつかないまま、頭の隅を通り過ぎて終わるのだが(「クイーン」の時も、「第一容疑者」シリーズの時も、「RED 」や「黄金のアデーレ 名画の帰還」の時もそれは同じだった)、そんなことをついつい思い起こさせる、私にとっては稀有の女優だ(もっとも、そんなにたくさんは見ていないのだが)。この映画でも、迷彩服姿の女性司令官を貫禄たっぷりに演じている。部下に、非情な決断をうながす時の、口元にうっすらと笑みを浮かべた表情は印象に強く残る。

 

 監督は「ツォツィ」のギャヴィン・フッド。2015年公開。

 

 

 

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